「俺、メシ作ってるから。先風呂入ってこいよ」
田口の勧めに島津は一つ頷いた。
一日ぐらい入らなくてもいいかもしれないが、今日は日差しが明るく汗ばむ陽気だったし、酒盛りの後に入っていないというのも気になるところ。
しかし、服を脱いで風呂場で掛け湯をして、湯船に入ろうとしたところで島津ははた、と気付いた。
足が届かないのだ。
田口の家の風呂場は広くない。
さてその広くない風呂場で、人が浸かれる湯船を造るにはどうするかと言ったら、必然的に湯船を深くすることになる。
縁に足は届くが、湯船の底に足が付かないのだ。
「マジで…………か?」
本当に子供になってしまっている事実に愕然とする。
しかしここでスゴスゴと引き下がるのは、どうにも腹立たしかった。
浴用の椅子を踏み台にし、足を伸ばして慎重に湯船に入る。
湯船の底に爪先が届いた。
届いたはいいが、身体を支えていた腕がずるりと滑る。
「島津っ?!」
風呂場から聞こえてきた派手な水音に、田口が慌ててドアを開けた。
頭のてっぺんまで被ってしまった水を振り払う島津を見て、田口は全てを察して苦笑を浮かべる。
島津の方は、鼻に水が入ったせいで咳き込む方に忙しかった。
「一人じゃ危ないか…………」
一度決断すれば、田口の行動は速い。
小さく呟くと、島津が咳き込んでいる間に素早く服を脱ぎ捨ててしまった。
「入るぞ」
「え」
島津が気付いた時には、既に田口は風呂場で掛け湯を浴びていた。
浴槽の中に立ったまま島津は唖然とする。
「な、何で?」
「一人じゃ危なそうだからな」
田口はあっさり言い、タオルを泡だてて身体を洗いだした。
確かに、つい先ほど島津は命の危険を味わったばかりである。
子供が風呂場で溺れる理由がよく解ったが、それはそれだ。
「そこまで面倒見なくても……」
「でも、実際危なかったじゃないか。ウチで溺死されても困る」
「う……………………」
反論の余地もなく、島津は不貞腐れた。
目線を投げる先もなく、何となく給湯機器などを見ているうちに、身体を洗った田口が湯船に入ってきた。
小さくなった島津には溺れてしまいそうな湯船も、成人サイズの田口には狭い。
しかし、二人で入っても窮屈とまではいかないのは、偏に島津が小さいせいだ。
随分細っこい印象の田口だが、こうして間近で体を見るとそうでもないと島津は思った。径は細いが男の腕をしていた。
研究者らしい観察眼で田口を観察していて、島津は田口の首筋に赤い痣を見つけた。
「お前、それどうした?」
「え? 何?」
「違う、逆。赤くなってるぞ」
島津が自分の首筋で場所を示しながら尋ねると、田口はまず左右を間違えた。
島津がそれを指摘して言えば、田口も今度は正しい場所に触れた。
自分の首筋を掌で撫で、それから田口は驚いた顔になる。
一瞬目を見開いたかと思うと、眦を吊り上げて怒りの形相になった。
忌々しげな表情で田口は吐き捨てる。
「あのバカ…………っ」
それで大体、島津にも痣の正体が解った。
田口に「バカ」と呼ばれる男を、島津は一人しか知らない。
見てはいけなかった物を見た罰の悪さに、島津は浴槽に手をかけた。
「出る」
「ああ、解った」
田口は島津の脇の下から腕を掴むようにして、島津を抱き上げた。
入る時にあれだけ苦労した湯船から、あっさりと持ち出される。
「やっぱり軽いなぁ」
「仕方ないだろ」
感心した口調で田口が言うので、島津としてはぶっきらぼうに吐き捨てるしかなかった。
田口の勧めに島津は一つ頷いた。
一日ぐらい入らなくてもいいかもしれないが、今日は日差しが明るく汗ばむ陽気だったし、酒盛りの後に入っていないというのも気になるところ。
しかし、服を脱いで風呂場で掛け湯をして、湯船に入ろうとしたところで島津ははた、と気付いた。
足が届かないのだ。
田口の家の風呂場は広くない。
さてその広くない風呂場で、人が浸かれる湯船を造るにはどうするかと言ったら、必然的に湯船を深くすることになる。
縁に足は届くが、湯船の底に足が付かないのだ。
「マジで…………か?」
本当に子供になってしまっている事実に愕然とする。
しかしここでスゴスゴと引き下がるのは、どうにも腹立たしかった。
浴用の椅子を踏み台にし、足を伸ばして慎重に湯船に入る。
湯船の底に爪先が届いた。
届いたはいいが、身体を支えていた腕がずるりと滑る。
「島津っ?!」
風呂場から聞こえてきた派手な水音に、田口が慌ててドアを開けた。
頭のてっぺんまで被ってしまった水を振り払う島津を見て、田口は全てを察して苦笑を浮かべる。
島津の方は、鼻に水が入ったせいで咳き込む方に忙しかった。
「一人じゃ危ないか…………」
一度決断すれば、田口の行動は速い。
小さく呟くと、島津が咳き込んでいる間に素早く服を脱ぎ捨ててしまった。
「入るぞ」
「え」
島津が気付いた時には、既に田口は風呂場で掛け湯を浴びていた。
浴槽の中に立ったまま島津は唖然とする。
「な、何で?」
「一人じゃ危なそうだからな」
田口はあっさり言い、タオルを泡だてて身体を洗いだした。
確かに、つい先ほど島津は命の危険を味わったばかりである。
子供が風呂場で溺れる理由がよく解ったが、それはそれだ。
「そこまで面倒見なくても……」
「でも、実際危なかったじゃないか。ウチで溺死されても困る」
「う……………………」
反論の余地もなく、島津は不貞腐れた。
目線を投げる先もなく、何となく給湯機器などを見ているうちに、身体を洗った田口が湯船に入ってきた。
小さくなった島津には溺れてしまいそうな湯船も、成人サイズの田口には狭い。
しかし、二人で入っても窮屈とまではいかないのは、偏に島津が小さいせいだ。
随分細っこい印象の田口だが、こうして間近で体を見るとそうでもないと島津は思った。径は細いが男の腕をしていた。
研究者らしい観察眼で田口を観察していて、島津は田口の首筋に赤い痣を見つけた。
「お前、それどうした?」
「え? 何?」
「違う、逆。赤くなってるぞ」
島津が自分の首筋で場所を示しながら尋ねると、田口はまず左右を間違えた。
島津がそれを指摘して言えば、田口も今度は正しい場所に触れた。
自分の首筋を掌で撫で、それから田口は驚いた顔になる。
一瞬目を見開いたかと思うと、眦を吊り上げて怒りの形相になった。
忌々しげな表情で田口は吐き捨てる。
「あのバカ…………っ」
それで大体、島津にも痣の正体が解った。
田口に「バカ」と呼ばれる男を、島津は一人しか知らない。
見てはいけなかった物を見た罰の悪さに、島津は浴槽に手をかけた。
「出る」
「ああ、解った」
田口は島津の脇の下から腕を掴むようにして、島津を抱き上げた。
入る時にあれだけ苦労した湯船から、あっさりと持ち出される。
「やっぱり軽いなぁ」
「仕方ないだろ」
感心した口調で田口が言うので、島津としてはぶっきらぼうに吐き捨てるしかなかった。
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