南天

冬の祭典、始まりましたねー。霧島はお留守番です。
皆様、待機中にお風邪など召されませんよう……。

お正月スペシャルは大みそかまで続きます。雪うさぎの目にするヤツです。
難を転じる、で語呂合わせをして縁起を担ぎますが、今ふと思ったこと。
転じた難は何処行くんだろ？　他人様のトコ？　……恐ろしい、呪いの植物じゃないか。
そんな阿呆な話はさておき、花言葉は【私の愛は増すばかり、良き家庭】となっています。
今回は「私の愛は増すばかり」をチョイスしてみました。
案外、山咲さんとか行けないかな？
現実のニュースをちょこっとネタにしていますが、あくまで話題提供程度です。

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食事時にテレビを点けるのは教育に良くないと山咲みどりは思っているが、ニュースに全く触れないのも如何なものかと思う。
しかし、朝の情報番組も昼のワイドショーも、みどりにとっては五月蠅いばかりだ。
だからみどりは、決まった時間に国営放送のニュースをかける習慣だった。
ドラマが始まる前の十五分を、世情を把握するのに充てるのだ。
殺人事件や交通事故。痛ましいけれど、我が身に関わりの無いニュース。
永田町の攻防も、今一つ実感が湧かない。
そんな、薄らぼんやりとニュースを聞く日々に、そのニュースは飛び込んできた。

「複雑な世の中になったものねぇ……」

男性が会見を開いている様子を録った映像を眺めながら、みどりはニュースの中身を脳内で整理した。
妻が第三者からの精子提供で妊娠出産した子供の父親は誰か、という話だ。
妻のパートナーは、性同一性障害だった元女性である男性であり、遺伝子上の親子関係は無い。
裁判所の判断はパートナーの（元女性の）男性を父親と認めるというもの。
何を今さら、と思わないでもなかった。
父親と母親が我が子だと認めているのだから、他人がどうこう言う筋でもないだろう。
法が旧態依然としているが故に起こる裁判沙汰は、結末を聞くといつも滑稽な気がした。
まあ、みどり自身も、あまり余所様の事は言えないのであるが。

「山咲さん、何か食べるモノ無い？」
「あら、薫ちゃん。お夜食？」
「うん」

みどりがシッターとして面倒を見ている曾根崎薫が自室から顔を出してきた。
薫がダイニングテーブルに着くのと入れ替わるように、みどりはテレビの前から立ち上がる。
先日焼いたクッキーが残っていた筈だ。
ミルクの方が多いカフェオレを添えて、薫の前に出した。

「いただきます」
「はい、どうぞ召し上がれ」

薫ちゃん呼びを嫌がるようになっても、「いただきます」を忘れない辺りが実に可愛らしかった。
みどりも定位置の椅子に腰を下ろし、薫の顔をそっと観察した。

「お勉強は捗ってる？」
「まあまあ」
「そう」

薫は中身の無い答えを返し、みどりも曖昧に頷いた。
シッターであるみどりに成績の良し悪しを尋ねる資格はない。
保護親権者である曾根崎伸一郎にしても、成績にとやかく言う性質ではないので、薫は気楽な立場かもしれなかった。

「よく食べるのねぇ。お夕食、増やした方がいいのかしら？」
「今日はたまたま。体育あったし。いつも通りでいいよ」
「そう」

むぐむぐとクッキーを口に押し込む薫を見ていると、自分が産んだ生き物とは思えなかった。
娘の子供の代理母として薫と忍の双子を産んだのはみどりだ。
法制度上は母、書類上は祖母。
母にも祖母にもなれるが故にどちらにもなれないみどりは、他人として薫と接している。
他人の子として薫に接しているうちに、意識の方も血族的なベッタリ感は遠のいたようだった。
それでも薫が可愛いには変わり無い。

「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした。お勉強、頑張ってね」
「ふぁい」

お勉強の単語に嫌そうな表情を浮かべ、薫は席を立つ。
クッキーの粉がぽろりと零れるのが見えた。
そういう所はまだまだ子供で、そしてやはり愛しいと思えて、みどりは微笑を浮かべたのだった。