シスターに問う

百合注意報発令中

9月のBGM紹介付きSS企画、第2弾です。
注意報発令、ICUの爆弾娘と小児科の歌姫です。
うん……これといい、ネコとハヤブサといい、リリィとバイオレットといい。
愚痴外来でこんだけ百合くさいのを乱発しているのは、霧島くらいじゃなかろうか？


BGMは中島みゆき「短編集」収録の"Tell　me,　Sister"です。
これも以前に紹介したことあるかもしれないなぁ。それとも別サイトでネタにしたのだったか。
霧島史上最大の百合ソングです。
大体、タイトルのSisterからして百合なんだ。
容姿にコンプレックスのある女性が、理想の憧れを全て備えた女の子に出逢う。もう完璧憧れ、すっごい理想、あんなふうになりたかった、あんなふうに生まれてたら……って思う。
でも理想の彼女は彼女で、何か違う物を見ている。自分には何も無いと思っている。
この相容れないカンジが、虚しいし残酷な歌だと思うのです。
まあ、かなりの電波ソングで間違いない。


例によってワンフレーズ勝負なので、そこまでシリアスにはなりません。
爆弾娘と歌姫ですが、寧ろ学生時代の話かもしれない。
百合の香りに抵抗の無い方は是非覗いてみて下さい。



私信：うきら様
63000ヒットおめでとうございます！　リク了解です。
メールもお待ちしております。

滅多に無いことだが、全く無いわけではない。
世界の半分は男なのだから、その中には一人や二人ぐらい、如月翔子を袖にする男はいるだろう。
その男の好みが、翔子のようにハッキリキッパリしたタイプではなくて、翔子の親友のようにおしとやかなタイプである可能性も。
そんな話も、皆無ではない筈だ。



「うう～～～～っ」

酔っ払いは完全に管を巻いていた。
浜田小夜は、翔子を横目で見ながら呆れ顔の溜息を吐く。
ここが、小夜が一人暮らしをする部屋でよかったと思う。
無数の酒の空き缶と、半分以下になった酒瓶は見ないフリをした。
女の子がみっともなく酔っ払う様を衆人に披露するくらいなら、明日の部屋の片づけぐらいどれほどの苦労だろう。

「小夜はいいなぁ」

何度目になるか解らない翔子の呟き。
小夜はもう言葉を返すのを止めていた。
相槌が無くても、翔子は全く気にしていない。
そうして繰り言を重ねる。

「大人しくてぇ、優しそうでぇ、真面目でぇ、美人でぇ」

酔っ払いの舌は足りていない。
テーブルに頬を付けて、翔子は小夜を見ていた。
子供返りをしているような、好奇心に溢れた瞳だ。
酔っ払いだと解ってはいても、小夜はその視線から逃げ出したくなる。

「小夜みたいならよかったなぁ」
「そんなこと、ないよ」

辛うじて言葉を返す。
多分これも、翔子の耳には入っていない。

「翔子の方が素敵だよ」
「ふふふ――――っ」

小夜が言うと、翔子は嬉しそうに笑った。
だが、どこまで記憶に残っているかは怪しいものだ。
グラスから落ちた水滴で、テーブルに落書きをしながら翔子は笑う。
相合傘を書くのは未練の証だろうか。
たちまちに乾いて、テーブルには見苦しい跡だけが残る。

「明るくて、素直で、正義感があって、綺麗で。翔子は素敵だよ。翔子の良さが解んないなんて、そんな男付き合わなくて正解だよ」
「ヤだな～照れるなぁ～」
「った！」

小夜の言葉に、遠慮の無い力加減で翔子は小夜の腕を叩いた。
小夜は悲鳴を上げてしまうが、翔子は何処吹く風で笑っていた。
それから、翔子は床に引っ繰り返った。
家具があるので、大の字というワケにはいかなかったが。

「小夜、ありがと――」

テーブルの下、小夜の視界から見えない場所からの声。
語尾に寝息が重なった。
暫く息を潜めて、寝入ってしまったことを確信してから小夜は静かに立ち上がる。
翔子の枕元に膝を付いて、そっと顔を覗き込んだ。
頬に濡れた跡があるのは涙ではない。
アルコールの缶やグラスから落ちた水滴だ。
それが妙に笑えてしまう。

「…………本当だよ」

翔子の明るさも、真っ直ぐさも。
どれほどの憧れであることか。
一度闇に触れたことのある小夜には、どれも最早持ち得ない。

「大好きよ」

そっと唇に指で触れた。
翔子は目を覚ます様子も無い。
柔らかそうに何時も微笑んでいる唇も、小夜の憧れだ。
触れた指で自分の唇を辿ったら、アルコールの甘い香りがした。