もう8月も終わるのに、今月キリリクしか書いてない!
流石にそれはマズくないかということで、企画ものというか季節もの。
題して「夏は怪談リターンズ企画」です。
そのくせ、この1本がギリギリだよ。
いっそ9月まで引っ張るかなぁ……だってきっと暑いよ!
別題を東城大妖怪談義とでもします。
手元に、京極大先生様の画文集があるのです。
図書館からの借り物ですが、それでついついその気になったというか。
あんまり怖くはならないかもしれないですが、宜しければどうぞ。
サイトを更新しています。
6月の連続更新企画を再録しました。
地雷原登場率が高いかな?
流石にそれはマズくないかということで、企画ものというか季節もの。
題して「夏は怪談リターンズ企画」です。
そのくせ、この1本がギリギリだよ。
いっそ9月まで引っ張るかなぁ……だってきっと暑いよ!
別題を東城大妖怪談義とでもします。
手元に、京極大先生様の画文集があるのです。
図書館からの借り物ですが、それでついついその気になったというか。
あんまり怖くはならないかもしれないですが、宜しければどうぞ。
サイトを更新しています。
6月の連続更新企画を再録しました。
地雷原登場率が高いかな?
救急搬送されてきたのは若い女性だった。
下半身が血塗れだったが、すぐにその血の正体が知れる。
ヒトになれなかった細胞が、血溜まりの中に消えた。
「…………声がしたか?」
夜の不定愁訴外来室は、速水にとってちょうどいい休憩場所だった。
救命救急センターに近く、「満天」よりも美味いコーヒーにありつけて、話相手もいる。
今日も野生のカンで閑を見つけて愚痴外来で寛いでいた速水だったが、ふと聞こえた声に首を傾げて田口を見た。
速水の問いに、田口の方こそ首を傾げている。
「声? しないと思うけど」
「そうか?」
田口は言うが、速水は余り納得出来ずにいた。
そのまま何となく沈黙して、次の声を待ってしまう。
暫くして、大きな鳥が鳴くような音がした。
思わず田口と顔を見合わせる。
「ひ、悲鳴?」
「いや、人の声じゃなかった」
田口の顔は既に血の気が失せていた。
無理もない、田口は怪談の類は大の苦手ときているのだ。
速水も眉間に皺を寄せた。
東城大に、あんな鋭い声で鳴く生き物はいない。
危険な生き物かもしれないモノを放置しておく気になれず、速水はコーヒーカップを置いて立ち上がった。
田口が慌てて顔を上げる。
「え、お前どうするんだよ?!」
「見てくる」
「ちょ、ちょっと待てっ!」
速水が告げると、田口も焦ったように立ち上がって速水の後ろについてきた。
ドアノブに手を掛けたまま、速水はつい振り返ってしまう。
「お前、怖いの苦手だろ。来なくてもいいんだぞ?」
「…………一人で待ってる方が怖いんだよっ」
乱暴な口調だが、言っていることはカワイイものだ。
これから肝試しに出発するというのに、速水はつい感動してしまった。
微笑を浮かべて田口の手を取る。
「こうすれば少しは怖くないだろ?」
「う、うん…………っ」
きゅっと握り返された手に嬉しくなって、速水も握る手に力を込めた。
病棟の各階から落ちる明かりはナースセンターのものだろう。
足元もおぼつかない夏の闇の中を、声の方に向かって速水と田口は歩いていった。
三度目に聞いた声は、更に大きく鋭く響く。
その瞬間に、田口の手にぎゅっと力が入った。
この音に誰も気付かない事の方が、速水にも田口にも不思議で仕方なかった。
きつく握られた手を安心させるべく、指を絡め直しながら速水は進む。
カンだけで進んできたが、方角は間違っていなかったらしい。
黒い影が、闇の中にいた。
血の匂いが薄く漂っている。
「……………ヒト、か?」
速水の呟きに、隣の田口が首を横に振った気配がした。
目の前にいるモノから、田口も速水も目を放せない。
頭は丸い、ヒトの頭部だ。
だが、首から下の輪郭はカラスか鶏に酷似している。
鳥の胴体に人の頭を乗せたようなのだ。
靡いているのが頭髪か、それとも尾羽なのか解らない。
「あの顔、どこかで…………?」
乗っている頭は女だった。
眼窩がげっそりと落ち、皮膚とも思えない色をして、だらしなく口を開けていたが、その顔に速水は見覚えがあった。
考え込んでいるうちに、もう一つ、ソレは鳴いた。
不自然なほど大きな翼が広がる。
しかし羽ばたきも飛び立ちもせず、ソレは二人の前から姿を消した。
速水も田口も身動き一つ出来ず、呆然と立ち尽くしていた。
暫くして田口が口を開く。
「……………………哀しいな」
「哀しい?」
怖いでも恐ろしいでもなく、哀しいなのか。
田口の一言に、速水は首を傾げた。
田口自身も聊か首を傾げつつ、それでももう一度頷いた。
「うん…………何か、哀しいと思ったんだ」
耳の奥に、ソレの悲鳴が残っている。
確かに田口の言う通り、哀しい声だと速水も思った。
速水が女の顔を思い出したのは、救命救急センターに戻ってからだった。
仕事絡みの記憶は、職場と強く結び付いているらしい。
先日、救急搬送されてきたが亡くなった流産の女性だ。
化けて出るのは解るとしても、半人半鳥の姿に疑問を抱いていた速水に、答えをくれたのは田口だった。
「ウブメ?」
「うん」
産褥で死んだ女であるという。鳥の姿は魂の象徴だそうだ。
死んだ子供を抱いていることもあるといい、姑獲鳥の声はその子供の声だともいう。
「…………そうか」
あの声が哀しかったのは、生まれなかった命の声だからだ。
生まれなかった、産めなかった。
二人分の嘆きの声だったのだろう。
田口の話に、速水は天井を仰いでそっと目を閉じた。
愚痴外来のソファにふんぞり返ったままの、随分な格好で黙祷を捧げた。
母子になれなかった二人の為に。
目を開けた時、田口の微笑と淹れ直されたコーヒーがあった。
静かな気遣いに感謝の気持ちを込めて、速水はコーヒーカップに口を付けたのだった。
下半身が血塗れだったが、すぐにその血の正体が知れる。
ヒトになれなかった細胞が、血溜まりの中に消えた。
「…………声がしたか?」
夜の不定愁訴外来室は、速水にとってちょうどいい休憩場所だった。
救命救急センターに近く、「満天」よりも美味いコーヒーにありつけて、話相手もいる。
今日も野生のカンで閑を見つけて愚痴外来で寛いでいた速水だったが、ふと聞こえた声に首を傾げて田口を見た。
速水の問いに、田口の方こそ首を傾げている。
「声? しないと思うけど」
「そうか?」
田口は言うが、速水は余り納得出来ずにいた。
そのまま何となく沈黙して、次の声を待ってしまう。
暫くして、大きな鳥が鳴くような音がした。
思わず田口と顔を見合わせる。
「ひ、悲鳴?」
「いや、人の声じゃなかった」
田口の顔は既に血の気が失せていた。
無理もない、田口は怪談の類は大の苦手ときているのだ。
速水も眉間に皺を寄せた。
東城大に、あんな鋭い声で鳴く生き物はいない。
危険な生き物かもしれないモノを放置しておく気になれず、速水はコーヒーカップを置いて立ち上がった。
田口が慌てて顔を上げる。
「え、お前どうするんだよ?!」
「見てくる」
「ちょ、ちょっと待てっ!」
速水が告げると、田口も焦ったように立ち上がって速水の後ろについてきた。
ドアノブに手を掛けたまま、速水はつい振り返ってしまう。
「お前、怖いの苦手だろ。来なくてもいいんだぞ?」
「…………一人で待ってる方が怖いんだよっ」
乱暴な口調だが、言っていることはカワイイものだ。
これから肝試しに出発するというのに、速水はつい感動してしまった。
微笑を浮かべて田口の手を取る。
「こうすれば少しは怖くないだろ?」
「う、うん…………っ」
きゅっと握り返された手に嬉しくなって、速水も握る手に力を込めた。
病棟の各階から落ちる明かりはナースセンターのものだろう。
足元もおぼつかない夏の闇の中を、声の方に向かって速水と田口は歩いていった。
三度目に聞いた声は、更に大きく鋭く響く。
その瞬間に、田口の手にぎゅっと力が入った。
この音に誰も気付かない事の方が、速水にも田口にも不思議で仕方なかった。
きつく握られた手を安心させるべく、指を絡め直しながら速水は進む。
カンだけで進んできたが、方角は間違っていなかったらしい。
黒い影が、闇の中にいた。
血の匂いが薄く漂っている。
「……………ヒト、か?」
速水の呟きに、隣の田口が首を横に振った気配がした。
目の前にいるモノから、田口も速水も目を放せない。
頭は丸い、ヒトの頭部だ。
だが、首から下の輪郭はカラスか鶏に酷似している。
鳥の胴体に人の頭を乗せたようなのだ。
靡いているのが頭髪か、それとも尾羽なのか解らない。
「あの顔、どこかで…………?」
乗っている頭は女だった。
眼窩がげっそりと落ち、皮膚とも思えない色をして、だらしなく口を開けていたが、その顔に速水は見覚えがあった。
考え込んでいるうちに、もう一つ、ソレは鳴いた。
不自然なほど大きな翼が広がる。
しかし羽ばたきも飛び立ちもせず、ソレは二人の前から姿を消した。
速水も田口も身動き一つ出来ず、呆然と立ち尽くしていた。
暫くして田口が口を開く。
「……………………哀しいな」
「哀しい?」
怖いでも恐ろしいでもなく、哀しいなのか。
田口の一言に、速水は首を傾げた。
田口自身も聊か首を傾げつつ、それでももう一度頷いた。
「うん…………何か、哀しいと思ったんだ」
耳の奥に、ソレの悲鳴が残っている。
確かに田口の言う通り、哀しい声だと速水も思った。
速水が女の顔を思い出したのは、救命救急センターに戻ってからだった。
仕事絡みの記憶は、職場と強く結び付いているらしい。
先日、救急搬送されてきたが亡くなった流産の女性だ。
化けて出るのは解るとしても、半人半鳥の姿に疑問を抱いていた速水に、答えをくれたのは田口だった。
「ウブメ?」
「うん」
産褥で死んだ女であるという。鳥の姿は魂の象徴だそうだ。
死んだ子供を抱いていることもあるといい、姑獲鳥の声はその子供の声だともいう。
「…………そうか」
あの声が哀しかったのは、生まれなかった命の声だからだ。
生まれなかった、産めなかった。
二人分の嘆きの声だったのだろう。
田口の話に、速水は天井を仰いでそっと目を閉じた。
愚痴外来のソファにふんぞり返ったままの、随分な格好で黙祷を捧げた。
母子になれなかった二人の為に。
目を開けた時、田口の微笑と淹れ直されたコーヒーがあった。
静かな気遣いに感謝の気持ちを込めて、速水はコーヒーカップに口を付けたのだった。
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