あなたの為に夜更かしを

今更になりましたがメリクリあけおめ企画、うきら様のリクエストです。
うきら様、その折は企画参加有り難う御座いました。
スライディング土下座しても追い付かない、遅刻で申し訳御座いません……ううっ。


リク内容は「あまあまイチャイチャな将軍行灯」でした。
スウィートライフシリーズの基本コンセプトは「うっかり人前でイチャラブする二人」なのですが、裏を返せば自宅ではどれだけイチャイチャしてるんだ？　ということになるワケです。
シリーズには入れませんが、これを踏まえて「だだ漏れ～」を読むとちょっと楽しくなれる……かもしれません。
それではどうぞです。

相変わらず、真っ当な時間に帰れることのない速水である。
特に冬ともなると、家々は戸口を閉め切っていて、街自体がひっそりと沈黙している。
そんな住宅街を歩く足取りに付ける擬音は、どうしても「とぼとぼ」しか選べない。
しかしそんな寂しい帰り道を経て辿り着くのは、恋人と暮らす部屋だった。

「ただいまぁ～」

施錠された扉を静かに開け、遠慮がちに帰宅の挨拶をする。
勿論、返事はない。
室内は仄かに暖かく、玄関の奥からは明かりが漏れていた。
速水の為に居間の照明を点けておいてくれたらしい。
その明かりだけでも身体が暖まる気がする。
コートのボタンを外しながら、速水は居間へと進んでいった。
そして、コタツに人影を見つけて目を丸くすることになる。

「起きてたのか」

コタツに潜り、天板に突っ伏して寝息を立てているのは同棲中の恋人田口だった。
寝巻の上にどてらを羽織り、手もコタツの中に突っ込んでいる。
コタツの上に、些か無造作に文庫本が置かれていた。
本を読んでいて、眠気に負けたのだろう。
このままでは風邪を引いてしまうし、風邪を引かないまでも、身体が痛くなるのは間違いなしだ。
速水は田口の肩に手をかけた。

「おい、こんなトコで寝るなよ」
「う、んん…………っ」

肩を揺すりながら声を掛けると、田口は小さく呻いて一度ぎゅっと目を瞑った。
それからゆるゆると瞼を上げる。
何度か瞬きをして、田口は焦点を速水に合わせた。
速水の顔を見て、田口はほにゃりと笑う。

「あ、お帰りぃ」
「ただいま。こんなトコで寝るくらいなら、先に寝てろよ。風邪引くぞ」

ついつい小言めいたことを口にしてしまう。
医者の不養生とはよく言うが、速水も田口も、うっかりするとそうなってしまう要素が大きい。
田口は速水の小言に唇を尖らせた。
反応が子供じみているのは、寝起きで頭が回っていないせいかもしれない。

「お帰りが言いたかったんだもん」

そして子供じみた口調で、田口は言い訳を一つ零した。
単純な言い訳だが、速水の唇に笑みが浮かぶ。
自分を待っていてくれる人がいる。
それはとてもとても、幸せなことだ。

「ただいま」

つい先ほども口にした挨拶をもう一度口に乗せると、田口もにっこりと微笑んで

「お帰り」

と言ってくれた。
挨拶したことに満足したらしく、田口の瞼はまたゆるゆると閉じられていく。
速水は慌てて再度田口を起こしにかかった。

「寝るなら布団行けって。ほら、コタツから出ろ」

コタツという悪魔の発明品の中にいるから悪いのだ。
田口を引っ張り出そうと腕を掴むと、田口の腕が速水の首に回った。
身体を寄せながら、田口は速水の耳元に囁く。

「布団連れてってぇ～」

自分で歩くのすら億劫らしい。
田口のおねだりに速水は微笑を浮かべて、下半身に力を込めた。

「っこいしょっ、と」

掛け声が出るのは、まあ仕方ない。
一気に田口をコタツから引っ張り出して抱き上げる。

「んふふ～っ」
「呑気なヤツだな」

寝惚けた田口が楽しそうに笑うので、速水は苦笑と溜息を一つ零した。
勿論、幸せには違いなかった。