キラキラ渚

58000ヒットした、ミツ様からのリクエストです。
ミツ様ヒットおめでとう御座います＆リクエスト有り難う御座います。


さてリク内容は「将軍と行灯でラブラブ」でした。
折角だから夏要素をブチ込んでみようと思います。
脳内妄想した時点では（気持ち悪いほど）イチャついた話だったのですが、それが上手く表現出来るかはこれからの霧島次第。
それなりに頑張りますので、どうぞお付き合い下さいませ。


私信：こなつ様
58888ヒットおめでとう御座います。
のんびりで結構ですよー、いつでもリクどうぞです。

内線電話が鳴る音で、田口は目を覚ました。
現在時刻は朝の5時だ。
既に外が明るくなっているとは言え、こんな時間に愚痴外来の電話を鳴らす人物などいる筈がない。

「…………もしもし？」

寝惚けた声を取り繕いもせずに出た田口に、電話の主は「海へ行かないか」と誘った。



「ん――――っっ」

砂の上に立って田口は伸びをした。
夏の光を浴びた海がキラキラと波を散らす。
朝の5時のビーチに海水浴客の姿は無く、サーファーの影が点々としているばかりだ。
眩しい海に目を細めながら、田口は後ろを振り返った。
田口を誘った当人である速水がゆったりと歩いてくる。
靴を車に置いてきたのだろう、裸足でズボンの裾も捲っていた。

「どうして突然、海へ行こうなんて言い出したんだ？」

誘われるままについて来た田口だったが、疑問が氷解したわけではない。
速水は小さく笑った。

「イヤだったか？」
「じゃないけど」

田口は首を横に振った。
勿論、厭な筈がなかった。
まだ気温も上がりきっていない時間帯、人も多くない。
景色を堪能するには絶好だと、改めて田口は気付く。
実際に今の田口はかなり上機嫌だ。
自主残業の疲れも、潮風に洗われていく心地である。

「何となく、お前と二人で海見たことなかったなって思ってよ」
「そうだったか？」

苦笑と共に言う速水に、田口はまた首を傾げた。
学生時代から二十年の付き合いにもなるのに、そして海に近い場所に住んでいるのに。
思い返してみれば、真っ先に思い浮かんだのはすずめ四天王で大騒ぎした海水浴光景だった。

「ああ、確かに…………」
「だろ」

田口が思わず呟く。
そんな田口に速水は一つ頷くと、不意にニヤリと笑った。

「こう、恋人っぽい雰囲気の海ってのも無かったよな」
「ぅえっ？！」

田口の口から素っ頓狂な声が出た。
声だけではない、表情もかなり間抜けなものになっている。
速水は更に笑った。

「追いかけっことか、してみるか？」

脳裏に浮かんだ光景は、中年男にはとても表現出来るものではなかった。
混乱に陥りかける田口に速水は一歩二歩と詰め寄る。

「逃げないのか、ん？」
「ちょ、本気で…………うわっ？！」

追いかけっこなんて可愛いものではない、追い詰められた気分で一歩二歩と後退した田口だったが、砂浜の凹凸に足を取られて引っ繰り返ってしまった。
掌底の下で砂が音を立てる。
速水が声を上げて笑った。

「ははっ！　何やってんだよっ！」

原因はほぼ速水だというのに腹の立つことである。
尻もちをついたまま速水を睨み上げた田口だったが、やがて口元に笑みを浮かべた。
何時までも怒っているのは勿体無い気がしたのだ。
機嫌を損ねていない田口にちょっと不思議そうな顔をした速水だったが、勿論田口は理由を説明する気になどならなかった。
夏の光を横顔に浴びながら笑う速水が、あんまりキラキラしていたからだなんて。
渚で追いかけっこ以上に恥ずかし過ぎると、田口はこっそり思ったのだった。