文化祭絡みのリクがありましたよねー……最早大昔の話ですが。
高校時代は兎も角、大学の学校祭を完全スルーした霧島には些か荷が勝ち過ぎているのですが、ちょうど文化祭シーズンですので一発書いてみようかと思います。
とは言え、女装コンテストも執事喫茶も、n番煎じのこの時代。
目標がもンの凄く低くなりました。
スタート地点では色気皆無です。ただのダチだろ、これ、みたいな。
ラストはもうちょっと色めいてますが、まあほんのりだな。
このくらいの肩肘張らない物から書いていけばいいのかなーとか思うようにしております。
というワケで、軽いです。さらーっと読み流して頂ければ幸いです。
それではどうぞです。
「ホレ」
ピっと顔の真ん中に突き出された色画用紙の切片。
田口は寄り目になったが、当然ながら正体は不明のまま。
色画用紙と、それを突き出した速水の顔を交互に見て、田口は疑問を口にした。
「何?」
「学祭のチケット。ウチはフランクフルト屋なんだ」
「ウチって剣道部?」
「おお。簡単そうでいいだろ、ナイスチョイスだ」
学級制がない大学では、部活動が一つの活動単位となる。
こういった、学業に関係ない部分では殊更だ。
田口は受け取ったチケットをしげしげと眺めてみた。
印刷が歪んだのか、"剣道部"の文字がズレて二重になっていた。
値段の部分だけはきっちりと印刷されている。
「……100円って安くないか?」
「そんなモンだろ? 200円じゃ高いし、半端な値段はコッチがメンドくさいし」
「まあ、確かに」
フランクフルト1本に200円は高い。田口でもそう思う。
120円とか150円とかが思い浮かんだが、端数が出るのは店番の学生にとってやり難いだろうことは、簡単に想像がついた。
結局、ワンコインが簡単なのだ。
そんなことを考えていた田口の前に、速水が空になった手を突き出した。
「つーわけで、ホレ、100円」
「くれるんじゃないのか?!」
「これも貴重な売上だ。寄越せよ、安いモンだろ」
「くっそぅ……」
眉を顰めながらも、田口は尻ポケットの財布から百円玉を出した。
「お、カネ持ってたか」
「そう思うんだったら、俺にたかろうとするなよ」
「お前、持って無い時はホントに持って無いからな――」
受け取った百円玉をそのまま尻ポケットに突っ込んで、速水は大変失礼な事を口にする。
当然ながら田口は文句を零したが、速水は全く気にもしなかった。
「何だ、コレ…………?」
講義の無い日にわざわざ大学へ行くような積極性が、田口にあるワケがない。
だが一方、田口は貧乏性であった。
100円とは言え、払った金を無駄にするような真似は到底出来ないのである。
そんな理由で、学校祭の当日、田口は東城大学まで足を運んだのだが……。
「ウチ、こんなに人多かったっけ?」
正門に入る以前で、田口は唖然としてしまっていた。
常日頃は悠々と……寧ろ閑散としている正門からの通りに人が溢れていた。
中には、制服を着ていたり明らかに年配だったりと、東城大学の学生ではない人の姿も見える。
だが、それらを差し引いても、敷地内にいる人々は多いと思えた。
「うえぇ…………」
この人波をかき分けて、速水のいる剣道部の出店を探さなければならないのか。
100円と秤にかけても割に合わない気がして、途端に田口の意気込みは萎えた。
100円はドブに落としたと思って、引き返してしまおうか。
……と。
「お、来たのか、行灯」
剣道着に竹刀……ではない、竹刀に茶色い布を巻いた棒を持った速水が正門付近にいた。
黄色と赤のビニールテープがジグザグに貼られていて、フランクフルトを模していると思われた。
いわゆるサンドウィッチマンのスタイルで、呼び込みをしているらしい。
腹側には剣道部とフランクフルトの文字、背側には構内の略図を背負っている。
「100円が惜しいとか、セコイなーお前」
「挫折しかかってたところだよ。ウチの学校、こんなに人いたっけ?」
「まあ、外来者もいるだろうけど」
うんざりした様子の田口を面白そうに見て、速水はからからと笑う。
ふと、田口の顔を見ながら、笑みの種類をニヤリとした性質の悪い物に替えた。
「お前、いつもは人気の無い所ばかりだからだろ、サボリ魔め」
「あ――…………」
速水のセリフに、腹を立てるどころか納得してしまう田口である。
実にその通りだと思った。
本気で納得して頷く田口に、速水の方が呆れたようだった。
頭を一つ振って、速水は踵を返した。
「来いよ、ウチのテントまで連れてってやる」
「仕事はいいのか?」
「ま、お前も客だからな」
「助かった」
速水の後に続いて、田口も正門内の人波に突入していった。
だが、常日頃から人のいない場所を選んでいる田口には、速水が一緒にいてさえ、この人波は難易度が高かった。
右で左で人にぶつかり、その度に頭を下げて左右に詫びる。
うっかりすれば、速水の後頭部も見失ってしまいそうになる。
「ったく!」
ふと、速水が足を止めた。
苛立ったような声に、田口も瞬間ビクリと身体に緊張が走る。
そんな田口の様子に気づかないまま、速水は田口の手首を掴んだ。
「っ、おいっ!」
「いいからさっさと行くぞ」
田口の声も丸っきり無視で、速水は人波を突っ切って歩いていく。
速水に腕を引かれるまま、前のめりで田口も人波を割って歩いていった。
掴まれている手首が少々痛い。だが、痛みよりも熱さが勝る。
田口自身もそうだが、手首から伝わる速水の体温がどんどん高くなっているような気がする。
「なあ」
「何だよ」
声をかけても、速水は振り向かない。
ぶっきらぼうな口調だが、剣道着の襟から覗く首筋が赤い。
後ろからそれがしっかり見えて、田口はゆるりと笑みを浮かべた。
「足、速い。もう少しゆっくり歩いてくれ」
「…………おお」
速水の返事は聞こえるか聞こえないかくらいの声量だったが、歩みはゆっくりになった。
この人混みだ、無理に急ぐ必要はない。
掴まれた手もゆったりした歩みも、火照る顔も、全て祭りの人混みのせいにしてしまえばいい。
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COMMENT
はじめまして。
最近しょうどんにハマってサイト巡りをしていてこちらにたどり着きました。
とても素敵な作品ばかりなので活動復活してくださってうれしいです。
恋人未満の初々しい二人も出来上がってる二人も大好きなので、ご自分のペースで続けていただければうれしいです。
とても素敵な作品ばかりなので活動復活してくださってうれしいです。
恋人未満の初々しい二人も出来上がってる二人も大好きなので、ご自分のペースで続けていただければうれしいです。
Re:はじめまして。
いらっしゃいませ! こちらこそ初めまして、ご来訪有り難う御座います。
ウチ、数だけは多いからな~ヒマ潰しになれば幸いです。
復活と言っても、大したコトしてないですけどね…そこはお恥ずかしい限りです。
せめて月一という、地を這うような大変低い目標ではありますが、のんびりお付き合い下さいませ。
素敵なしょうどんライフを満喫できますように!
ウチ、数だけは多いからな~ヒマ潰しになれば幸いです。
復活と言っても、大したコトしてないですけどね…そこはお恥ずかしい限りです。
せめて月一という、地を這うような大変低い目標ではありますが、のんびりお付き合い下さいませ。
素敵なしょうどんライフを満喫できますように!
はじめまして。
しょうどんに激ハマりしていろんなサイトを巡っていたら、素敵なネタばかりやってらっしゃるこのサイトに辿り着きました。唐突ですが、キリリクでなくてもリクエストを受けてくださいますか?
Re:はじめまして。
ようこそいらっしゃいませ! 初めまして~。
恥ずかしい程に停滞している当サイトですが、そう仰って頂けると嬉しい限りです。
ヒマつぶしにでも御活用下さいませ。
リクエストですか?
以前に受けたキリリクが消化しきれておらず、またちっとも思い浮かばず消化出来そうにない状態にあって、これ以上は無理かなーという理由で受け付けておりません。
「期待しないで下さい、マジで」というのが正直なところです……もう、本気のマジで。
これからも月イチがやっとだと思うので、申し訳ありませんが、リクエスト受付は致しません。
ホント、申し訳ないです……。
そんな、低空飛行サイトですが、何かの折にまた遊びにいらして下さいませな。
恥ずかしい程に停滞している当サイトですが、そう仰って頂けると嬉しい限りです。
ヒマつぶしにでも御活用下さいませ。
リクエストですか?
以前に受けたキリリクが消化しきれておらず、またちっとも思い浮かばず消化出来そうにない状態にあって、これ以上は無理かなーという理由で受け付けておりません。
「期待しないで下さい、マジで」というのが正直なところです……もう、本気のマジで。
これからも月イチがやっとだと思うので、申し訳ありませんが、リクエスト受付は致しません。
ホント、申し訳ないです……。
そんな、低空飛行サイトですが、何かの折にまた遊びにいらして下さいませな。